「これより都市裁判を開廷します。被告人、秘封倶楽部」





<掲載作品>

『箱男』

(挿入された音声データ)
 神の怒りを買ってバベルの塔が散逸しようとも、塔の欠片は偏在しているように、人は根源で連なっている。
 精神や電気信号や、諸々の回路によって。
 また映画の話?
 いいえ、これはこれからのお話ですわ。
 ああそう。
 バベルの塔は壊さなければなりません。
 だから、あたしを。
 ええ。

「水槽を壊す話は知っている?」
「いいえ」
「魚に恨みを抱いた狼が、仇敵の箱庭を破壊する物語なのだけど」
「なんで狼と魚がいがみあうの?」
「じゃあ、廃れた遊園地の話は?」
「遊園地って何?」
「知らないのならそのままでいて頂戴」
「メリーは知っているの?」
「黒い太陽の話は知っているかしら。太陽を見つめ続けると盲目になるでしょう。太陽の盲人にとって、太陽は黒いのよ」
「メリー、ねえメリー。はぐらかさないで教えて。私、貴女の本名も知らないのに」


『密会』

「最も人間的な欲求とは何か、君は知っているかな」
 馬が抑揚を無意味につけて、ゆっくりと引き笑いをしながら囁くのを、宇佐見蓮子は眉一つ動かす事も無く、聞き流していた。
「人間はね、病人になりたいんだよ、本当は」
「具体的にはどんな病気なのですか?」
「どんな? どんなですって?」
「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。つまりは、そう言う病気ですわ、宇佐見さん」

「ここにパノプティコンを造り上げるの。其れはトリフネの再現」
「そう、私達は全て病人でありたがる。其れこそがレゾンデェトル足りえるのだから」
「分からない」
「貴方こそがレゾンデェトルの病人であるのよ」
「私は病人なの」
「そう、いいえ、全てが病人であるのよ。都市国家の否定、其の中の自己発露。其れこそが、境界性人格欠乏症の外骨格。私達は私達を見失う」






<秘封倶楽部×安部公房 ふたり合同誌>

 こ ん に ち は 科 学 世 紀

文庫サイズ 124頁 800円(予定)

平成27年2月21日 境界から視えた外界-結-
倶01「ゐた・せくすありあ」にて頒布予定
書店委託の予定はありません。ご了承下さい





「閉廷」